メノナイトの暮らす村〜セント・ジェイコブス〜

メノナイトの暮らす村〜セント・ジェイコブス〜

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馬車の音が響き渡るメノナイトの村

広大な国土の各地に数多の民族、文化的ルーツを持つ人が共存して暮らすカナダ。中には、際立ったコミュニティーも点在し、特徴あるライフスタイルを送っている人々もいる。

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そのひとつが、オンタリオ州ウォータールー地方。トロントから西に車を1時間半ほど走らせると辿り着く。起伏の少ない、なだらかな農地と森が広がる田園地帯には、かわいらしい赤い家が点在していたり、屋根付きの橋があったり。本当にのどかな農村だ。時々目に止まる光景は、車道の両脇にある砂利道を通りすぎていく馬車。馬車が近づいてくると、馬の息づかい、蹄の音、車輪の音との心地よいリズムが響き渡り、何故か、ふわっと懐かしい気持ちや、タイムスリップしたような感覚が走る。

ここは主にメノナイトと呼ばれる人々が暮らす地域。メノナイトとは、16世紀に生まれたスイスに起源を持つプロテスタント再洗礼派(アナパブテスト)の流れを汲む一派の人々のことを指す。
「教会は自由意志で属するべき」「子供のうちの洗礼は無効であり、大人になって判断力がついてから洗礼をするもの」などと唱え、教会の権威を否定したことから、メノナイトの人々は危険な存在として長い間迫害を受けてきた。その結果ヨーロッパやロシア各地に分散していったり、新天地北米大陸に移住してきた歴史を持つ。

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ウォータールー地方には、主にドイツ・オランダ系のメノナイトが1780年代から定住し始めた。特にセント・ジェイコブスという村には、大きなコミュニティーがあり、メノナイトの村として知られている。彼らと一目で分かる服装は、女性は小さな花柄が散りばめられたワンピースと、白い帽子。男性はシャツに黒のジャケット&長ズボンなどで、ハットという格好だ。教会へ行く時や外出時には、女性も黒の帽子など黒っぽい格好をしている姿を見かける。ほかに、メノナイトの一種であるアーミッシュと呼ばれる人々も同地域で暮らしている。アーミッシュの女性は、紫や緑などの無地のワンピースを着用しているのでメノナイトとの違いを識別できる。

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自給自足を基本とし、19世紀の質素な習慣を維持している人も

メノナイトは非暴力主義で、平和主義、そしてキリストの教えに忠実に生きようとしている人々。そんな彼らの日々の生活は信仰と共にあり、規律も厳しく大変質素だ。現在のメノナイトには、保守派から改革派まで生活習慣などが異なる15以上のグループがあり、昔ながらの生活を守る保守派の中には、今日でも移動は馬車のみ、電気も使用しない19世紀そのままの生活を送っているグループもいる。時々すれ違う馬や馬車は、メノナイトが日常的に使用しているもの。黒塗りの屋根付き馬車や、農作業用の馬車など、その形もレトロで、まるで映画のワンシーンを見ているようだ。

もちろん、ほかのグループの中には現代文明との折衷型や、電気も自動車も使用し服装も私たちと変わらない、現代的な生活を送っているメノナイトもいる。それでもみな、自給自足的な暮らしを基本としているので、家畜を飼い、農作物を作り、大工業や、料理、クラフトまで、生活に必要なものを各家庭やコミュニティー全体で相互扶助のもと暮らしている。

この地域の人々の言葉は、家庭内や教会など基本はドイツ語(ペンシルバニア・ダッチ語)。移住から何世代を経ても祖国の言葉を守り、受け継いでいるのだ。英語は6歳以降に学校で学び、コミュニティー内と外で使い分けている。

ここまでを聞くと、メノナイトは閉ざされたコミュニティーだと想像するかもしれないが、決してそういうわけではない。メノナイトのお互いを大切にする気持ちは、コミュニティー内だけでなく、災害救助活動など愛と平和のためのボランティアを世界に向けて活動している。

数年前、私は取材という名のもと、メノナイトの一般家庭を特別に訪問させてもらったことある。元気な4歳の男の子と愛らしい2歳の女の子、その両親の4人家族。オールドオーダーという旧守派に属する一家で、奥さまがたくさんの料理を用意してもてなしてくれた。

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パン、キャベッジサラダ、スキャロプポテト、ソーセージ、カップケーキやメノナイト伝統のスタフィングなど、すべてオーガニック農作物を使用した自家製の料理は、お肉も野菜もパンも、素材の持つ力強さが伝わる美味なものばかり。おそらく科学調味料も使っていないのだろう。どれも素朴で優しい味がした。今の時代では、自然農法や無農薬の食材を集めるだけでも大変なことだから、これほど贅沢な食卓はないのかもしれない。
「生活はシンプルですが、私たちは大切なもの、本当に必要なものは持っています」というご主人の言葉が心に響いた。

メノナイトの作る農産物やクラフトが人気

独特のライフスタイル、独自のコミュニティーを形成するメノナイトだが、周囲住民との関係は良好だ。周囲のカナディアンはみなメノナイトを理解し、彼らの生活を妨げないように見守っているのが分かる。写真を撮られることを嫌がるメノナイトに、もしカメラを向ける観光客がいれば、周辺住民がそっと諭したりしている。

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また、メノナイトの作るオーガニックのメープルシロップや、野菜、キルトやクラフトは大変人気が高く、周辺の人だけでなく、トロントなど都会からも、買い求めにやって来る。セント・ジェイコブスにあるオンタリオ州最大のファーマーズ・マーケット内には、メノナイトたちが作った農作物を直接販売しているお店がいくつもある。ホットドックを売る屋台はお昼時には行列ができるほど。ドイツ系がルーツだから、手作りソーセージの味は折り紙付きだ。

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マーケットや周辺にはキルトやクラフトショップがあり、キルトの制作風景を見学できるお店もある。丁寧な縫製と美しいデザインに魅了されるメノナイトのハンドメイドキルトは世界的にも有名。オンタリオ州のB&Bなどでも、ベッドカバーや壁掛けなど、キルトがいろいろな場面で愛用されているのが分かる。

もっともっと、メノナイトのことを知りたいなら、ファーマーズ・マーケットにある「Horse Drawn Tours」を体験してみてほしい。馬車に乗って農村を散策したり、メノナイトのメープルシロップ農家に立ち寄ったりと、もっと生活に近づくことができる。ほかにも、セント・ジェイコブスのビジターセンター内にあるメノナイト博物館や、キルト博物館など、生活や食、歴史に触れることができる場所がたくさんある。

メノナイトやメノナイトを巡る人々との関係など、セント・ジェイコブスのような村を旅すると、また一つ真のカナダが見えてくる。みなさんも美しい田園を一度訪れてみてはいかがだろう。

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