04. カナダの自然を愛したシートン

シートンを育てたカナダの自然04. カナダの自然を愛したシートン

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シートンは、アメリカで活躍するようになった後も、カナダの自然を忘れはしなかった。1907年夏、現在の北西準州にある、グレートスレーブ湖の北の極地へ、トナカイ(カリブー)の群れを求めての探検旅行を敢行している。ウィニペグを起点に、3000キロ以上に及ぶカヌーの旅だった。その記録は、1911年に『北氷草原紀行(The Arctic Prairies)』として出版。カナダ北部の農業に適さない地域を、「不毛で危険で空っぽの荒野」と捉えるのではなく、「自然が豊かに残る素晴らしい大地」と見ることもできることを人々に示した。

カナダ北部の自然は、現在も、シートンが旅した100年前も、1000年前も、そう大きく変わっていない。鉄道が通り、飛行機が飛び、町や村ができてはいても、町の周囲にはほぼ手つかずの自然が残っている。それを有難がるからこそ、グレートスレーブ湖畔にあるイエローナイフの「オーロラ観光」も、私が行ったチャーチルの「野生動物観光」も成り立つのだ。亜極北や極北の自然を、征服し、変えてしまう対象として見るのではなく、それ自体を有難いものとして、大切に守る…。カナダの人々がそんな発想を得るのに、シートンの『北氷草原紀行』が貢献したという。そうだとすれば、彼は北部カナダ観光の知られざる立役者と言えるだろう。

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トロントのドン谷 (提供:中村滋氏)

そうした理屈はともかく、『北氷草原紀行』には、極北の自然と、そこに生きる人々の姿が、生き生きと描かれている。カナダ北西部へ旅行する人たちには格好の案内書となって、旅を一層充実したものにするだろう。

ところで、シートンは、遠く離れた、「手つかずの大自然」に生きる野生動物だけを主人公に小説を書いたわけではない。むしろ、彼の動物小説には、人里に住む身近な獣や鳥が、しばしば人間ともめ事を起こしながらも、懸命に生きる姿を描いた作品が多い。特に、カナダを舞台にした作品に、その傾向が強い。

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『銀の星』の挿絵。カラスの収集癖を描いている。シートン画

カナダ最大の都市、トロント。日本からの訪問者も多いことだろう。トロントを訪ねるにあたっては、市内のドン谷(Don Valley)の森を根城とするカラスの生態を描いた『銀の星』や、同じくドン谷に住んでいたエリマキライチョウの物語『赤襟兄い』を一読されてはいかがだろうか。どちらも、『私の知る野生動物』に収められた短編で、昼飯を食べながらでも読み終えてしまうほどの長さだが、読めば、トロントへの愛着が深まることと思う。

【註】
*シートンの著作物の表題は、評論社『シートン全集』(1951年-1953年 内山賢次訳)に準拠した
*シートンは1946年に没しており、その著作物は著作権が消滅して「パブリックドメイン」に属している。そのため、著作物の多くは英語版をウェブサイトで読むことができる。
例えば、“Internet Archive”
https://archive.org/search.php?query=creator%3A%22Seton%2C+Ernest+Thompson%2C+1860-1946%22

“The Biodiversity Heritage Library”

http://www.biodiversitylibrary.org/search?searchTerm=+Seton%2c+Ernest+Thompson#/titles
には、シートンの著作物が網羅的に掲載されている。

*「インディアン」を差別語とする見解があるが、筆者は必ずしもそうではないと考える。
カナダでは、「インディアン」に代わる用語として「ファースト・ネイションズ(First Nations)」が使われるようになった。しかし、この用語をもって、合衆国の先住民を含む用語「インディアン」に換えることは、合衆国の先住民が自らを「ファースト・ネイションズ」と称していない以上、妥当ではない。また、「インディアン」を全て「北米先住民」に言い換えることは、合衆国先住民の多くに支持されている「インディアン」という語を抹殺することになり、これも妥当ではないと筆者は考える。そこで、本稿では、北米インディアン一般を指す場合は「インディアン」を用い、カナダのインディアンを指すことが明確な場合などには「先住民」を用いた。
なお、これは筆者の見解であり、カナダ観光局の見解とは別物である。

コメント

  • 岡野 惠

    小学校の頃に、偕成社版のシートン動物記が発売され、新しい巻が出るのを楽しみにして、愛読していました。その、シートンがカナダの人で、シートン動物記という名前の本はないのだというのは、驚きでした。改めて、シートンの著作を読んでみたいという思いにかられています。

  • 天手 コフ

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  • 天手 コフ

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  • 匿名

    あ~いいね~いきたくなった!dkkmんぢゅh

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