05. 川を耕す

ビーバー カナダを創ったスーパー・アニマル05. 川を耕す

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私が野生のビーバーを観察したのは、主にマニトバ州南西部にあるライディングマウンテン国立公園だった。大草原にぽっかりと浮かぶ山並みで、面積は3千平方キロというから、東京都がすっぽりと入る広さだ。1930年代、作家で自然保護活動家のグレイ・アウルの働きによって絶滅寸前だったビーバーを復活させる運動が起こったとき、ライディングマウンテン国立公園は一大拠点となった。ビーバー史上、由緒ある場所なのだ。

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ビーバー池の周囲では齧り倒された木々が放置されている

ここのビーバーは、数が多いだけでなく、人をあまり恐れなかった。書物などには「ビーバーは警戒心が強く、夜行性」と書かれていることが多いが、この公園では、人々が長年ビーバーを大切にしてビーバーの信頼を勝ち得たからだろうか、ビーバーはまだ明るいうちから姿を現し、ときには私たちから4~5mの距離にまで近づくこともあった。

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切り株に残る、ノミで削ったようなビーバーの歯形

ビーバーの姿が見えないときも、その存在を表すモノはいくらでも見られた。ビーバーダムや、ビーバー池、そして、池の中のロッジなどだ。ビーバー池の周辺には、自然保護区にもかかわらず、木々が乱伐され、放置されている。切り株を見ると、無数の、ノミで削ったような跡。ビーバーの仕業だ。

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(上)巣の周りに立ち枯れた針葉樹 (下)「木の墓場」を想わせる

ビーバーは、カピバラに次いで世界で二番目に大きなげっ歯類、つまりネズミの仲間だ。上下の顎に2本ずつ、前歯(門歯)が生えている。動物園で、ビーバーが木を齧り倒す様子を観察した。頭を横倒しにし、上の前歯を木にしっかり固定。下の前歯でがしがしと木片を削り取っていく。直径約5センチ、大人の手首ほどの太さの木を、40秒で齧り倒した。10センチの木でも15分ほどで齧り倒すという。そんな風にして、食料の葉っぱを得るために片っ端から木を齧り倒すのだから、一種の自然破壊だとも言えよう。

ビーバーによる環境改変は、乱伐だけではない。ダムを築くことで一帯を水没させてしまう。ビーバーが齧り倒さないモミやトウヒなどの針葉樹も、根元が水浸しとなり、枯れてしまう。たくさんの木々が立ち枯れ、まるで木の墓場のようになった池もある。こうして見ると、ビーバーは環境を破壊しているように思われる。しかし、実際は、彼らの作るダムが、まわりの環境を変えることで、より豊かな自然を生みだしているのだ。

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ビーバー池には、巨大なムース (ヘラジカ)も水草を食べに現われる

ビーバーが、小川をせき止め、まとまった水たまりを生みだすことで、カモやガンなど水鳥が暮せるようになる。水辺を好む、世界最大のシカ、ムース(ヘラジカ)も、ビーバー池に生える水草を食べに、姿を現すようになる。池の中で立ち枯れた木々は、ミドリツバメやミソサザイなど、木の洞でヒナを育てる小鳥にとって、格好の巣作りの場所となる。大きなアオサギにとっても、池の中の木々は、外敵が近づけないので、巣作りに最適だ。

また、ビーバー池には、ビーバーが食べ残した小枝や葉っぱ、それにビーバーの排泄物などが溜まって、富栄養化する。しかも、川と違って水がよどむので温まりやすい。その養分と熱がプランクトンを育む。そのプランクトンを食べて小魚や水生昆虫などが育ち、それら小動物はミンクやアライグマなどより大きな生きものの糧となる。このように、ビーバーは、川をより豊かな水辺に変えているのだから、<川を耕している>とも言えよう。

とまあ、ビーバーのダム作りはいいことずくめのようだが、人間にとってはしばしばやっかいな問題を引き起こす。その実態を、首都オタワ郊外のガティノー公園で目の当たりにした。また、そこでは、ビーバーが生み出す「魔法の薬」の効力も目撃したのだった。

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