01. All Aboard!

カナダの大地を走る蒸気機関車01. All Aboard!

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紺色のコートを着て居住まいを正した車掌の叫ぶ声が、静かな駅全体に響き渡る。メープルシロップ・トレインという珍しい列車が走っているのを知ったのは、この年(2014年)の年明けだった。

我が家では毎年この時期に、一年間に使うメープルシロップを補充する。行き先はトロントからクルマで約1時間の街、エルマイラ。年一度、1日限りで行われるElmira Maple Syrup Festivalと呼ばれるメープルシロップのお祭りで、冷凍保存できる専用ボトルに入ったものを買い求めるのが年中行事となっているが、この年はメープルシロップ列車に乗ってやってきたのだ。

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列車の正式名は「Elmira Maple Syrup Festival Excursion operated by the Waterloo Central Railway」。先頭はディーゼル機関車。その後ろに車掌室と思しき車両がつけられ、その後に一両ごとに違った客車が繋げられている。 現役を終えた車両を貰い受けては、丁寧にメンテナンスし安全に運行できるようにしている。

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用意された踏み台を登り車両に入ると、 木枠の窓には、触ると取れてしまいそうな懐かしい取手が付いている。すこし硬めのベンチシートは、座り心地が昔懐かしい。暖房は効いているもののどこからか隙間風が吹いているらしく、足元からが少しだけ冷気が残っていた。

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天井の室内灯はところどころの電球が切れていて、車両は年を重ねた綻びが見え隠れするが、全体が一つのレトロな世界を演出しているように思えた。長い年月をかけ、この客車は多くの人を運び続けたのだろう。

早朝の1番列車は、出発時にはほぼ満員となった。

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4人掛けの窓際に座った私は、見るからにヨーロッパ系の家族連れに囲まれて、一人旅のはずが、家族旅行のようだ。聞き慣れない言葉の会話に包まれた私は、ジャケットの襟を立てて隅に体を沈め、露で曇った窓を時々手のひらで拭き取っては外の景色を眺めていた。

列車は、びっくりするくらいにゆっくり走る。最初に出会った居住まいを正した車掌が登場すると、検札の時間だ。乗客一人一人に声をかけ、時には談笑する。手元に戻ったブルーのチケットにハート形のハサミが入っていたのを発見した時、思わず頬が緩む。

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ほのぼのとした車内で過ごす時間が変わったのは、この後起きた予想もしなかった車窓の光景を目にした時だった。

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