森の魂を描いた女性画家エミリー・カー vol.2

Emily Carr森の魂を描いた女性画家エミリー・カー vol.2

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グループ・オブ・セブンの画家ローレン・ハリスに出会って以降、エミリーは先住民の文化(トーテムポールなど)ばかりでなく、カナダ西海岸の森や海辺の風景も描くようになった。当時のビクトリアは、町からちょっと足を延ばせば殆ど手つかずの自然が残っていた。彼女は、その森の霊気を吸い込むようにして様々な森の表情を描いて行った。このあたりの森は温帯雨林に属するが、彼女はそうした深い森の“気配”を自在に描いている。それは時に荒々しい原初的な緑の塊のようでもあり、時にゴッホが描いた糸杉の絵のような線描的な木々や空でもある。

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案内のジョアンさんは、エミリーの森の絵について「ダンスをしているような木々の枝や森の動き、光のリズムが好き」だという。そう言えば、彼女の絵にはまるでダンスをしているように枝を伸ばし震わせているような森の木々が描かれている(写真は「Deep Woods」1936年)。文字通り「Dancing Tree」というタイトルの絵もある。

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あるいは、深い森の中で他の木々とは違って一本だけどっしりと幹を天に伸ばしている「Lone Cedar」(写真)のような絵もある。この絵も、筆の動きは軽やかというかリズム感に満ちている。エミリーの絵には後段に紹介するようにもっと量感のある緑の塊のぶつかり合いのようなダイナミックな絵もあるが、美術館「Art Gallery of Greater Victoria」にあるのは、大抵がジョアンさんの好きそうな森の絵だ。

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ただし、その描き方は多様で、写真の「Blue Sky」(1936年)のような、ちょっと抽象化されたような森の絵もある。

後半生のエミリーは、こうして様々なカナダの森の表情を描いて、まさに「森の魂を描いた女性画家」になったが、それは若い時から先住民の人々と交流し、自然を畏敬する彼らの精神に触れたことも大きかっただろうと思う。しかし、一方でエミリーは、その自伝に次のように書いている。「私は先住民から沢山のことを学んだ」。「しかし、カナダそのもの以外、誰がこの地の大きな森や空間を分からせてくれたか」。画家集団「グループ・オブ・セブン」が新しい画風によってカナダの自然を発見したのと同じように、エミリーもまたカナダ独特の奥深い森に相応しい表現を追求した画家だった。

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■エミリーが描いた場所を見に行く
「晩年の彼女が実際にどういう所を描いていたのか、見に行きましょう」とジョアンさんが“アートツアー”に連れて行ってくれることになった。美術館から車で10分程、最初に連れて行ってくれたのはコルドバ・ベイという海辺だった。

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流木が流れ着いている海岸で、遠くに描かれていた小屋はもうないけれど、エミリーの絵(「Shore and Forest」1931年)そのままの風景が今も残っている。あのキャンピングカーの「エレファント」を運転してこうした人気(ひとけ)のないところにやってきては、好きな犬や猿と会話しながら描いていたのだろうか。

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近くには深い森が続いている。ジョアンさんは、持って来たエミリーの画集を広げながら森の木々について解説してくれた。この森には杉や(トーテムポールの材料になる)もみの木々が茂っている。

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また、彼女の生家の近くの公園の森には、彼女が描いた絵とそっくりの曲がりくねった幹や枝を持つ木もあった。晩年に心臓病を患ったエミリーは遠出ができなくなり、よくここへ歩いて来て描いたと言う。こうして実際の現場を訪ねてみると、その昔、エミリーが不自由な足を引きずりながらスケッチブックを持ってこのあたりを歩いていた光景が浮かんで来る。ローレン・ハリスに励まされたとはいえ、彼らは遠い東海岸の画家たち。ひとり孤独に森の木々たちと会話していた彼女は、その時どのようなことを思っていたのだろうか。

■彼女はどういう思いで絵を追求していたのか
最晩年の彼女は、先住民の物語などを書いた何冊かの物語でやっと有名になったが、絵の方では最後まで理解者が少なかった。その彼女が今、多くの人々に愛される画家になったのは、彼女の独特の絵だけでなく、逆境の中で絵を描くことを貫いた波乱万丈の生き方に惹かれるのかもしれない。絵を描くことに専念するために、一人の青年からのたびたびのプロポーズも断り、生涯独身だったこともある。

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その詳しい生涯については、彼女自身が書いた「エミリー・カー自伝」や、「エミリー・カー」(野に棲む魂の画家)などの日本語訳本などを読んで頂くとして、知りたいのはやはり彼女がどういう気持ちで、あの独特の絵を追求し続けたのかということである(写真はかつてのエミリーのアトリエ)。それをさらに知るために、次回は同じビクトリア市にある、彼女の絵を収蔵している州立の「ロイヤル・ブリティッシュ・コロンビア博物館」と彼女の生家を訪ねる。

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(その前に、バンクーバー美術館の好意で彼女の森の絵を2つほど紹介しておきたい。彼女の絵のユニークさが分かる絵だ)

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