02. 一生ものの帽子

アルバータの物語02. 一生ものの帽子

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そもそもアメリカ大陸に牛はいなかったんだそうだ。

メキシコを制服したスペイン人がヨーロッパから牛を持ち込んだのが始まりで、だからカウボーイの代名詞、カウボーイハットもメキシコ人たちがかぶっていた麦わら帽子をベースに作られたのだという。

「カウタウン」と呼ばれるカルガリーには、今も昔と変わらぬ製法で正真正銘のカウボーイハットを作っている店がある。1919年創業の「Smithbilt Hats」だ。カルガリーのおもてなしの象徴、ホワイトハットはこの店から生み出されたものだ。

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それにしても、店内にカウボーイハットばかりがずらりと並んでいる光景って、なかなか日本じゃお目にかかれない。

店の奥が工房になっているので、早速その製造工程を見せてもらうことにした。

最初の段階のカウボーイハットって、こんな感じ。ウールのフェルト地で、まさに麦わら帽子みたいな形をしている。これを機械で固定し、蒸気で柔らかくして成形していく。

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頭の部分は大きさや高さの異なる木製の型を使う。独特な「つば」の反り返りも、いくつもある型によって生み出されていく。

こう説明しているだけですぐに分かってもらえると思うけれど、ここでの作業はすべてが手作業だ。

コンピューターなんて使わないし、流れ作業もない。1つ1つ、昔と変わらぬ丁寧な手作業による工程が続いていく。

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使われている機械もみんな1919年の創業当時のもので、すべてがオリジナル。なかには1889年製の機械まであった。

どれもこれも頑丈に作られているので、消耗する部分以外は壊れたりしないんだそうだ。

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どこか1カ所でも壊れたら買い換えるしかない最近の電化製品に比べると、なんとまあ、たくましいことだろう。

そして、この店で作られるカウボーイハットは1万円ぐらいから10万円ぐらいするものまであるけれど、最高級品の「ビーバーハット」はこれらのマシンと同様、「一生もの」だ。

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僕はこれまでに、大航海時代にカナダの地にやってきたヨーロッパ人と先住民たちの間で、毛皮交易が行われてきたことを原稿にしてきている。

ビーバーの毛皮は当時、イギリス紳士の山高帽など、ヨーロッパの貴族や軍人などがかぶる高級帽子「ビーバーハット」の材料となっていた。

そうした知識はあったけれど、まさか現代のカルガリーで「ビーバーハット」の「カウボーイハット」に出会えるなんて、予想だにしなかった。

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そして、「Smithbilt Hats」が世に送り出したビーバーハットをはじめとするカウボーイハットが「一生もの」であることを保証してくれるのが、ものすごい存在感を醸し出しているこの職人さんだ。

何かの映画で、重要な役どころで出演していたような気もするけれど、これは僕の勘違いだろうか。

とにかく、こうした職人さんが、くたびれた帽子に蒸気をあてたり、汚れた表面を細かい紙やすりで削ったりして、帽子を新品のように生まれ変わらせてくれる。もちろん、もともとの質がいい帽子だからこそ、できる芸当だろう。

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さて、「Smithbilt Hats」のモリス氏という方が、ロシア製のフェルトを使い、本来は汚れやすいためカウボーイハットには向かない真っ白な「ホワイトハット」を作り出したのは1946年のことだ。

その2年後の1948年、グレイカップというカナダ最大のフットボール大会に地元チーム「カルガリー・スタンピーダー」が出場することになり、盛り上がった選手やファンがこの「ホワイトハット」をかぶり、飛行機で試合が行われるトロントに乗り込んだんだそうだ。

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すると、この派手なカウボーイハットが人目を引き、新聞でも取り上げられたことから、「ホワイトハット」は一躍、カナダ国内で広く知られるようになったのだという。

そして1950年代に入ると、当時のカルガリー市長が訪問客にこの「ホワイトハット」を贈るようになり、いつしか白い帽子はカルガリーのおもてなしに欠くことのできないものとなっていった。

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「Smithbilt Hats」の店内には、カウボーイハットをかぶった各国のVIPやスターの写真がたくさん貼ってあった。

その中には、我らが日本国の元総理大臣の写真もあった。きっと2002年にアルバータ州のカナナスキスで開かれたサミット(G7)の時の写真だろうと思う。

それにしても、そのヘアスタイルじゃあ、カウボーイハットは似合わないよなあ。髪が横からむにゅんとはみだしてしまう。

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まあ、僕も昔から帽子がまったく似合わないので他人のことを言えた義理じゃあないけれど、とりあえずこの原稿が元総理の目に触れないことを祈りつつ、話を先に進めたいと思う。

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