それぞれの夢を生きる@バンクーバー 前編

LIVE YOUR GOALそれぞれの夢を生きる@バンクーバー 前編

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2011年大会で見事世界一を勝ち取ったなでしこジャパン。準々決勝で、主催国の強豪ドイツを破った翌日に、たまたま別の仕事で降り立ったフランクフルトは、日本人には超アウエィなムードだった。身長162センチ、体重50ウンキロの筆者を見るなり、「こんな小さな日本人に負けたのか」と、何人もの人が言うのだ。彼らの落胆ぶりは相当だった。

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コールハーバー・シーウォークの眺め

だが、準決勝、決勝と昇り詰めるうち、現地の空気は劇的に変化した。「倒されても飛ばされても健気にボールを追う姿に、最初はヨーロッパ人としてスウェーデンや米国を応援しようと思ったけれど、日本を応援したよ」と、今度は笑顔で声をかけに来る人もいた。

「LIVE YOUR GOALS」は、女子サッカーの発展を目指すことを目的としたFIFAが提唱するスローガン。前回、ドイツの観衆を味方につけるほど輝き、日本中にその存在感を見せつけたなでしこジャパンが、今回はカナダで頑張る姿を見たくて、バンクーバーにやってきた。

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夏のバンクーバーは、太陽の下で身体を動かしたくなる

「決戦の舞台 BCスタジアム」

6月のバンクーバーは爽やかだ。湿気がなく、海も空もまぶしいほど青い。日中の気温は摂氏22度と表示されていたが、日差しはもっと強く感じられ、ホテルの屋外プールで泳ぐカップルもいれば、タンクトップとビーチサンダルで町を歩いている若い女の子も多い。

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右側がBCプレイス・スタジアム

決戦の舞台となるBCプレイス・スタジアムは、ダウンタウンの東側にある。2010年のバンクーバー冬季オリンピックで開会式と閉会式の会場となった由緒ある競技場で、FIFA女子ワールドカップでは決勝が行われる。予選C組のなでしこジャパンの主戦場でもある。街灯に掲げられたワールドカップのバナーに導かれるように、ロブソン通りを降りていくと、何本もの鉄骨が空を突き刺すような形のBCプレイス・スタジアムに着く。

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義足のランナー、テリー・フォックスの像

スタジアムの正面では、カナダ人なら知らない人はいない「希望のマラソン(Marathon of Hope)」のテリー・フォックスの像が迎えてくれる。1ドルコインの図柄にも採用されたテリーは、骨肉腫で右足を切断した後、がん研究資金を募るために、1980年、北米大陸横断をめざし、義足をつけて毎日42キロを走り続けた。癌の転移のために完走は果たせず、22歳でこの世を去ったが、全カナダに大きな感動を与えた。テリーの遺志をついだチャリティ・ランは今でも続いており、彼の像や名前を冠した建物はカナダ中にあるという。

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左下の人達と比べると安藤選手の大きさがわかる

試合前にスタジアムの場所の確認に来たのだが、人間のピュアな心や意志の強さを、尊敬をもって讃えるカナダの人の心を見るような気がして、しばし像の前でたたずんでしまった。
テリーの像の奥、スタジアムの正面には、見上げるほど巨大なMF安藤梢選手と思しきポスターが掲げられていた。「男子ならクリスティアーノ・ロナウド?メッシ?ネイマールってこと?すごい!でも、チャンピオンだものね」と騒ぎながら、日本からの留学生のグループが嬉しそうに写真撮影をしていた。

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ファン・ゾーンはスタジアムから徒歩5分

「ファンでなくても楽しい"ファン・ゾーン"」

6月8日の初戦の日本対スイスの試合開始は午後7時。時間まで「ファン・ゾーン」に寄ってみることにした。試合の開催に合わせて、ワールドカップ開催中にオープンしているこの「ファン・ゾーン」では、スポンサー各社が趣向をこらしてブースを出し、子供も大人も楽しめるアトラクションを揃えている。ドリンクサービスやフェイスペインティング、写真撮影、ゲームなど、無料で楽しめるものもたくさんある。

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澤選手はファン・ゾーンでも存在感あり

ここにはW杯優勝のトロフィーを掲げる澤穂希選手のポスターが、でかでかと貼られていた。「日本国内よりも海外のなでしこ人気はもっと高いのかなぁ」と思うほどだ。

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ライブビューイングはテントの中

中央のテントでは、もちろんライブビューイングが行われている。国土面積が日本の27倍もあるカナダは、国内に6つの時間帯がある。バンクーバーで行われる日本対スイス戦の日、時差が2時間あるカナダ中央部のウィニペグでは、予選D組スウェーデン対ナイジェリア戦がバンクーバー時間の午後1時開始、午後4時半にはアメリカ対オーストラリアの試合が始まっていた。
放送予定は確認していないが、「ファン・ゾーン」にいると、1日に3カ所の試合観戦も可能という計算になる。ただし、中でアルコールは2杯までしか販売してくれないので、「ゲームはずっと楽しんで!でも、酔っ払ってはダメよ!」ということですね。

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初出場のスイス。テレビ局が熱心に取材していた

さて、初戦の対戦相手スイスは、テレビ局が中継で現地の様子を伝えたり、サポーターにインタビューをしたりと、さすがサッカーの本場の欧州のチーム、熱が入っていた。

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大道芸人もW杯を盛り上げる

「赤色はスイス?カナダ?」

「このテントの中、真っ赤…」と、誰かが英語でつぶやいた。赤色をつけたサポーターの数が想像以上に多いのを見て、ちょっとショック。日本のブルーは数で完璧に負けていた。
しかし、よく見よう。それらの多くはカナダの国旗のTシャツや帽子ではないか。そう、多分、カナダの人たちはスイスを応援するわけではなく、カナダ人のアイデンティティを前面に出しつつ、サッカー自体を楽しみにやってきているのだろう、と勝手な想像を巡らせた。

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オリンピックの聖火台の奥がTVスタジオ

近くに海も山もあるバンクーバーは、もともとスポーツの盛んな土地だ。サッカーチームだってある。遊歩道をサイクリングしたり、ランニングしている人も多い。街を歩いてみると、スポーツバーに限らず、レストランやバーでテレビ放映しているのは、たいていスポーツ中継。世界の一大イベントとなれば、仕事帰りにも、ちょっと出かけてみようか、という気分になるのではないか。

ダウンタウンの北、クルーズ船が発着するカナダ・プレイスとコンベンションセンターの並びにあるバンクーバー・オリンピックの聖火台のある広場でも、浜風を受けながら、ビールと食事を楽しみつつ、ワールドカップを楽しめる。

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テレビ中継を隣のカフェで見るのも楽しそうだ

アメリカ4大ネットワークのFOX放送が、コールハーバーを望む場所に大掛かりな屋外スタジオを設置している。リアルな解説をする目的で作っているという隣接する小さなサッカー場を眺めていたら、「会期中、デビッド・ベッカム選手も来るらしいよ」と、警備員が耳打ちしてくれた。「え、いつ、いつ?」と,目を2倍くらい大きくして聞き返すと、「それは未定なんだけれど…」と、ウィンクされてしまった。

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道端でサッカー・ドールを作るリンダさん

街角には、サッカー選手を器用にかたどった風船を作って売っている人もいた。「他のは2ドルだけれど、選手は10ドルよ。作るのに手間がかかるからね」と、さりげなく話す。バンクーバーでは、7月1日のカナダ建国記念日「カナダデー」を盛大に祝うが、そのお祭りのイベントに、彼女はマジシャンの夫と夫婦そろって登場するプロの大道芸人らしい。
こんな風に、バンクーバーの町はどこかリラックスした空気を漂わせながら、それぞれにワールドカップを盛り上げている。

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