06. ティム・ホートンズ編(1) カナディアン・セラピー

君はまだ本当のカナダを知らない06. ティム・ホートンズ編(1) カナディアン・セラピー

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2014年夏のある日―。多くのカナダ人にとってショッキングなニュースがメディアによって伝えられた。それは同時に、多少なりともカナダに関わっている僕のような人間にとっても少なからず衝撃的なニュースだった。

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カナダ最大のドーナツチェーン「Tim Hortons(ティム・ホートンズ)」が、アメリカの「バーガー・キング」に買収された、というのだ。

僕はその日の朝、新聞各紙を丁寧に読み、事態の正確な把握に努めていた。

記事はおしなべて、この買収劇の持つ意味をこんなふうに報じていた。いわく、バーガー・キングが世界第3位のファストフードチェーンにのし上がる、いわく、法人税率が低いカナダに本社を移すことで税負担の軽減を狙っているー。

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しかし、肝心なのはそこじゃない。世界のファストフード業界の勢力図がどうなろうが、そんなことはどうでもいい。多くのカナダ人にとって最も大事なのは、この買収によってティム・ホートンズがどうなってしまうのか、という点だ。

つまりカナダ国民が心配しているのは、コーヒーやドーナツの味が変わったり、大幅な値上げが行われたりしないか、ということだ。しかし、どの日本メディアもティム・ホートンズの「今後」については何ひとつ情報を提供していなかった。

そのことで僕は多少イラついていたし、さらに僕をイラつかせたのは、この時、僕と思いを共有してくれる人が周囲に誰もいなかったということだ。

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いや、そもそも探しても無駄だ、分かるはずがない。日本中を探してみたところで、カナダ人にとってのティム・ホートンズの重要性が分かる日本人など、そうそういるはずがない。

いや、そういう僕だって、彼らにとってティム・ホートンズが重要だと知ってはいるけれど、では、どうしてそんなに重要なのかとなると実はさっぱり分からない。というよりも、まったく理解できない。

誤解しないでほしい。別にコーヒーやドーナツの味がどうこうで「理解できない」と言っているわけじゃない。ただ、コーヒーだってドーナツだって、ほかにもいっぱいあるじゃないか、と思っているだけだ。

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いろいろなドーナツ店があるし、コーヒーチェーン店もたくさんある。つまり、好みは人それぞれ、と思うだけだ。しかしカナダではどうもそうじゃない。とにかくまずは、ティム・ホートンズ、なんだ。

なにしろカナダ国内に3000店以上あり、カフェとしての国内シェアは60%超。2位のスターバックスの7%を圧倒している。

とにかくカナダ中、どこに行ってもティム・ホートンズがあって、朝からドライブスルーは大行列。もうティム・ホートンズがなければ夜も明けないって感じだ。

さて、ここまで書いてきたけれど、やっぱりほとんどの日本人にとってはピンとこない話だろうと思う。

そこでもう一度、カナダ観光局にお願いしたアンケートを紹介したい。「プティン編」でプティンへの愛を語ってくれたナイアガラ・ヘリコプターのアナ・ピアースさんに再び登場いただく。

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「カナダ人なら分かると思うけど、2週間も海外に行って帰ってくると、入国審査と税関に走って、人ごみをかき分けてベルトコンベアから荷物を受け取って、駐車場の仕切りを壊さんばかりの勢いで空港から出ると、まず“一番近いTimmiesはどこだ?”って探すわよね」

僕にとって、海外から戻って真っ先に食べたいものって何だろうか。少なくともそれは1つではないと思う。その時によってカレーだったり、ラーメンだったり、刺身だったりすると思う。

ちなみに、「ティミーズ」(Timmies)とか、「ティムズ」 (Tim's)というのは、カナダの人たちが使うティム・ホートンズの愛称。カナダを旅するなら憶えておいて損はない。

続いて、アルバータ州観光公社のダーリーン・フェドローシェンさんという女性の証言。

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「大好き!(ティム・ホートンズは)家族や親友みたいな存在。お気に入りのメニューは『ダブル・ダブル』と『メープル・ドーナツ』。ありきたりに聞こえると思うけど、他にはない“カナディアン・セラピー”的な存在だわ」

“カナディアン・セラピー”ってつまり、多くのカナダ人がティム・ホートンズによって元気になったり、癒されたりするってことだろうか。

例えば、2001年の米同時多発テロを受けたアフガニスタン侵攻の際、最前線のカンダハル空軍基地内には、カナダ軍兵士たちのためにティム・ホートンズが開設された。

ここまでくるともう、これは紛れもない“カナディアン・セラピー”だ。これに匹敵する“ジャパニーズ・セラピー”なんてあるだろうか。寿司?おにぎり?―。いくら考えても1つに絞ることはできない。

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だから僕は確信している。もし巨額の資金を投じてティム・ホートンズを買収し、カナダ全土の店舗をしばらく閉店させてしまえば、カナダ国民の志気は萎え、経済も行政も交通機関も、あらゆる機能が麻痺すると思う。

そして、この機を逃さずにアイスホッケーの試合に持ち込めば、長野大会以来、オリンピック出場すら果たせていない日本代表だって、必ずや世界チャンピオン・カナダに勝利できるはずだ。しかも一方的な展開で圧勝できるだろう。

まあ、今回のバーガー・キングの買収による影響は、コーヒーがほんの少し値上がりした程度で、カナダ国内に特段の混乱も起きなかったらしい。

だから残念ながら、アイスホッケーで日本がカナダに勝てる可能性も今のところほとんどない。しかし、方法論ははっきりしている。いざとなったらやってみる価値はあるんじゃないだろうか。

コメント

  • kk

    カナダに一人旅をしに行ったことをきっかけに、ティムホートンズを知りました!僕も大好きなので、この記事を読みながら凄くわくわくしてしまいました。(買収は寂しいですが。。。)
    カナダに関わった仕事がしたいって思う!

  • あむ

    買収されていたなんて!ショックxxx

  • Kei

    『ダブル・ダブル』はドーナツの種類ではなく
    コーヒーに、砂糖をダブル(2つ)ミルクをダブル(2つ)のオーダーのはずですが・・?

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