05. キルトとともに

僕とアンが見つけた14の物語05. キルトとともに

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「主婦としての手腕はたいしたもので、何でも手際よく、人並み以上にやってのけた。裁縫の集いの中心ではあるし、日曜学校の経営から外国伝道婦人後援会の重鎮といったぐあいでありながら、しかもなお何時間でも台所の窓下に座って、木綿のさしこのふとんをさす余力があった」-(モンゴメリ著/村岡花子訳/新潮文庫刊「赤毛のアン」より)

「ANNE of GREEN GABLES」の最初の登場人物を覚えているだろうか。

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アンでもマシュウでも、マリラでもない。実はあの、レイチェル・リンド夫人なんだ。

アヴォンリーに住むすべての人と事柄に目を光らせ、根掘り葉掘りと調べ上げる、おせっかいな人。

それでいて自分のことも完璧にこなすというんだから、こっちとしては文句のつけようがない。

「初登場」の時も、リンド夫人はキルト、つまり「木綿のさしこ」の作業をしながらマシュウの動きに目を光らせていた。しかもそうやって怠り無く監視を続けながら、16枚ものさしこのふとん=キルトを作り上げたというんだから、これはもう大したもんだ。

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ただし、当時の主婦にとってキルトづくりは、我々の頭に浮かんでくるような趣味の世界のものじゃない。

なにしろベッドにキルトをかけていなことには、厳しい冬の寒さを乗り切れないという切羽詰った事情がある。

だから主婦たちは家族が温かく眠れるようにと、懸命に身近にある布切れをつなぎ合わせていたんだ。

シャーロットタウンで、キルト作家のPenelope Playerさんのお宅を訪ね、古いキルトをたくさん見せていただいた。

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「The Quilt」

そう微笑みながら、Penelopeさんがよいしょとばかりに持ち上げてくれたのは、昔、農家の主婦が作った、すごく貧しくて、すごく重たくて、だけど本当に温かいキルト。

四角い布をつなぎ合わせただけで、キルトづくりの技術としては本当に初歩的なものなんだそうだ。

「素敵な美しい模様のキルトより、カナダではこれが一番」とPenelopeさん。キルトというものは、まずは温かいことがなにより大事、ということなんだろう。

昔の主婦は、布地の切れ端を袋に入れてとっておき、娘が結婚する時に袋ごと渡したりしたんだそうだ。

そんなことを繰り返していくから、袋の中をよく見てみると、ひいおばあちゃんが入れた布切れが入っていたり、なんてこともあったと聞いた。

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Penelopeさんには高い技術を要するキルトや、展示会に出した作品も見せてもらった。

だけど、僕の印象に残ったのは、やはり世の中全体が貧しかったころ、そして、今のように物があふれていなかった時代のキルトだ。

例えば、昔の農家の主婦たちは、キルトの裏地に、畑に播く「種」が入っていた袋を使ったりしていた。

収穫を得るための「種」を播いたあと、手元に残る袋が、身近な布地の中で一番、頑丈だったからだそうだ。

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砂糖や小麦粉の袋にも丈夫な布地が使われていた。だから主婦たちは、やはりこの布地をキルトの裏地に再利用したのだという。

メーカーの方もそのあたりは心得たもので、「再利用」を前提に、赤と白の可愛いチェックの柄でこうした袋を作っていたというんだから、今とは世の中全体の考え方が違っていた、ということだろうか。

ロビンフッド・フラワーは、今もカナダでは誰もが知る小麦粉のブランドだ。

写真では分かりにくいかもしれないけれど、この古いキルトの裏地をよく見ると、トレードマークであるロビンフッドの姿がかすかに見てとれるんだ。

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僕なんかの世代だと、小学生の頃、母親が小さくなったセーターをほどいて、その毛糸に新しい毛糸を足し、新しいと言えばいいのか、何割かだけ新しくなったセーターを編んでくれた記憶がある。

だから子供のころは何となく、セーターの色の基調はずっと茶色のままで、それに新しい色が加わって「シマシマ」になったりもした。

布団だって、昔はあの農家のキルトのように重たい綿だったし、布団は「打ち直し」をしてずっと使い続けるものだった。

そう言えば以前、岩手県の遠野で、「オシラサマ」という神様の取材をしたことがあった。

娘と馬の顔がついた2本の木が「オシラサマ」。遠野ではどの家にも「オシラサマ」があって、服を着せるように、願い事を書いた布地を「オシラサマ」にかぶせ続けていくんだ。

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何年も何年もかけて、何枚も何枚も布地が重ねられていく。めくってみると、「オシラサマ」に着せられた布地の質が落ちる時がある。

それが、作物の実りが少なかった年、生活が苦しかった年を示す、家族の思い出だ。

昔のキルトも、見えない裏地には再利用の布地を使い、表地には家族の洋服など様々な布の切れ端が使われた。

当然、キルトには、世の中が不況だったり、戦争をしていたり、あるいは家族にとって苦しい時代だったり、そんな「時代」と「家族」の思い出が詰まっていくことになる。

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ましてや、ひいおばあちゃんが袋に入れておいた切れ端なんて、なんだかすごい思い出が詰まっていそうだ。

今、そんなふうに布地を大切にしながらハンドメイドのキルトを作る人はほとんどいなくなってしまったという。

Penelopeさんの言葉を借りれば、「昔の主婦たちは、布を買うお金はなかったけれど、時間があった。だけど現代は、布地はいくらでもあるけれど、時間がない」ということになる。

「すべてのキルトにはストーリーがあるんです」とPenelopeさん。

ハンドメイドのキルトが減っていくように、忙しさの中で「時代」と「家族」のストーリーもまた、記憶の彼方へと消え去っていくんだろうか。

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