13. 続・再び「ワンダケ」へ

しあわせキュイジーヌの旅13. 続・再び「ワンダケ」へ

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そろそろシャルルボアからケベック・シティへと帰路につかなくてはならない。だけどその前にもう1回だけ「脱線」を許して欲しい。あのモンモランシー滝からル・マシフ鉄道に乗り込む前、先住民ワンダット(ヒューロン族)の人たちが経営する、ワンダケで過ごした興味深い夜のことを話しておきたいんだ。

夜、僕はワンダットの共同住宅であるロングハウスに招かれた。ここでは予約しておくと先住民ワンダットの伝説を聞くことができる。

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目の前にいるのは「オキヤ・ピカ」という「オオカミ一族」出身の女性。ワンダットの中にもいろいろな「族」があるらしい。

本来なら僕のように外部からやってきた「客」は、クマの脂を頭髪に塗られるという歓迎を受けるそうだ。もちろん、今はその説明だけだ。
そして「オキヤ・ピカ」さんは、始めにこう質問したんだ。「Are you in peace?」。

これも歓迎のためのワンダットの問答なんだそうだ。もし心穏やかに、平和に生きているのなら、ただ一言、「アオウー」と答えればいい。オオカミが吠えるように、「アオウー」―。これが「イエス」の意味だ。

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焚き火の炎の中、ここからワンダットの伝説のストーリー・テリングが始まる。

もともとワンダットの人々が住んでいたのは、神々と精霊と鳥たちだけがいる空の世界。そのころは大陸などの陸地はどこにも存在せず、ただただ海があるだけだったという。

ある日、病気になったワンダットの娘「ヤハタイムシック」は、呪術師の勧めで「生命の木」の近くに座って回復を待つことに。しかし、座り心地がいいようにと根の周りを掘っていると突然地面が崩れ、「生命の木」とともに空の世界から落下してしまう。

途中、「ヤハタイムシック」は二羽の白雁に助けられ、海を泳ぐ巨大なカメの甲羅の上に乗せてもらう。しかし、甲羅の上での暮らしは、やはり心地いいものではない。

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そこで年老いたおばあさんガエルが彼女のために、深く深く海の底へと潜り、沈んでいた「生命の木」に付いていた土を口に含み、やっとの思いで海の上へと戻ってくる。カエルは大きなカメの甲羅の上に土を吐き出して息絶えてしまったが、その土が亀の甲羅を覆い尽くし、母なる大地、アメリカ大陸ができたのだという。

広大な北米大陸の中心にいたのはワンダットたちだった、ということになる。彼らの伝説を聞いた後はロングハウスを出て、焚き火での「バノック」体験だ。

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ホテルのレストラン、「ラ・トレイト(La Traite)」で出された「バノック」は現代人用にフワフワしていたけれど、こちらは本物だ。枝の先に生地を巻きつけ、回しながら残り火でゆっくりと焼いていく。

若干焦げるし、砂もくっつく。それでもキツネ色に焼きあがった「バノック」からは香ばしいにおいが立ち上ってくる。

歯が折れるほど固い、というのは焼いてから時間が経過した、保存食としての「バノック」なのかもしれない。焼きたての「バノック」は柔らかくてモチモチとしている。

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ワンダットの人々が、亀の甲羅の上に広がった大地で暮らしていた頃は、貴重な「穀物」だったんだと思う。

なにせ彼らはトウモロコシ、豆、カボチャの「スリー・シスターズ」だけで食料の大半を賄っていたんだから。そして、動物性たんぱく質が必要となる冬は、クマの脂を食べていたそうだ。

だから客を歓迎するためにクマの脂を頭髪に塗ることは、冬を越すための貴重な食料を客のために差し出す、ということだったんだ。

昼間、ロングハウスの外ではウサギの肉もご馳走になった。吊るして焼く、というか燻製のようにする。かつての製法そのままだという。

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スモーク・サーモンも当時のやり方で作ってもらった。上品なスモークというより、燻(いぶ)すという日本語の方がぴったりくる感じだ。

それぞれを味見させてもらう。スモーク・サーモンは、僕らがイメージする味が少しワイルドになったような味。ウサギはと言うと、こちらは本当にワイルドだ。

肉っていうのは本来、こうやってただ焼いて、小さくそぎ切りにし、口の中に放り込んでからよく噛んで食べるものだったんだと思う。ウサギってこんな味なんだ、ってことが本当によく分かる。

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「しあわせキュイジーヌの旅」に出る時は、ケベック・シティでこんなふうに、先住民の人たちの「味」を知ることを通じてカナダの歴史に思いを致す経験をしてみてほしい。

「しあわせ」な料理や食材がさらに深みを持って感じられると思うんだ。

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