04. カナディアン号の乗客たち

VIA鉄道でカナダ横断4500キロの旅04. カナディアン号の乗客たち

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ジャスパーでの二日間、カナディアン・ロッキーの見どころのいくつかを訪ねた。北米大陸を4800キロにわたって貫く巨大なロッキー山脈の中でも、カナディアン・ロッキーは最も美しいといわれる。20世紀初頭、観光資源調査のためにスイスから呼ばれたアルペンガイドが「ここにはアルプスが20もある」と言って驚嘆したという雄大な山並み。かつて北米大陸の大部分を覆っていた氷河の名残りが見られる広大な「コロンビア大氷原」。氷河から溶け出した水で湖水がエメラルド色になった神秘的な湖の「マリーン湖」などを訪ねた。

それらは、広いジャスパー国立公園のほんの一部に過ぎないが、カナディアン・ロッキーの魅力の一端を堪能した私たちは、ジャスパー駅から再び「カナディアン号」に乗り込んだ。17時30分、列車は例によってゆっくり静かに動き出した。今度は一気に終点のトロントまで行く。車中3泊、62時間の旅だ。しばらく走ると周囲の山々が大分丸みを帯びてきた。カナディアン・ロッキーから離れつつあるのだろう。湖だ。幾分優しくなった山々が鏡のような湖面に映って窓一杯に広がる。再び、列車を飛び降りて眺めていたいような素晴らしい風景が続く。

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19時過ぎ。まもなく「ディスイズ・ラストコール、フォー・ディナー」という呼び声で食堂車に移動する。今回は、ワイルド・パシフィック・サーモンのグリル、ロースト・プライムリブとローズマリー・デミグラスソース、チキンの胸肉のポートワイン煮などから選ぶ。ちなみに、ビールなどのアルコール飲料は別料金。食事の席で何度か顔を合わせるうちに、見知らぬ客同士もすっかり打ち解けてきた。

ところで、乗客にはもちろん若い人もいるが、意外に70歳代や80歳代と思えるようなお年寄りが目につく。話を聞いてみると、彼らは単に目的地に着くということだけにとどまらない「隠れた楽しみ」を長距離列車の旅に求めているようにも感じた。

例えば、真夜中の展望車で夜汽車の明かりを眺めていた、マーガレット・ショーさん。底抜けに明るい彼女は83歳になる母親を連れての2人旅だ。トロント近郊に住む彼女はバンクーバーに住む息子に会いに行ったのだが、何と行きは大陸を横断する3泊4日の長距離バスの旅だったそうだ。
「バスと列車でたっぷりいろんな経験が出来るでしょ。飛行機はつまらない」と、長旅を苦にする様子もない。

驚いたのが、86歳で一人旅をしている女性のシンディー・ロアさん。彼女は北米大陸のあちこちにいる子供たちをたずねて、一ヶ月もの長い旅をしている。
「若いときは飛行機がいいけど歳とったら列車の方がいい。テレビもないからニュースも知らなくていいし。学ぶべきものがあるうちは生きたいし、学ぶものがなくなったらさよならすればいい。私、102歳まで生きるつもり」。スニーカーをはいた細身のかくしゃくとしたおばあさんだ。

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それにしても、狭い日本ではちょっと想像しにくいが、お年寄りたちが軽々と何千キロもの大旅行をしているのには驚かされる。元気なお年寄りたちばかりではない。中にはやっと杖で歩いているような人もいる。お年寄りたちの、こうした大旅行を可能にしているのは何なのだろう?そういう視点で見ると、「カナディアン号」のサービススタッフたちのオープン・マインドで人懐こい笑顔、弱者をいたわる一言とさりげない手助けが実に気持ちいい。「受け入れ、支え、そして喜んでもらう」というサービス精神が徹底しているし、車椅子でも乗車できるという受け入れ態勢も万全だ。

これは、案外、多民族国家で人種、宗教、性別で差別しないという先進的な「多文化主義」を築き上げてきたカナダという国の一面なのではないか。多様な人々を受け入れ、共に生きていくのに必要な「世界の共通語」をカナダが洗練させてきた結果ではないだろうか――。そんなことを考えさせられた。

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